光はエネルギー E と運動量 p を持つ。質量はゼロだから相対論的なエネルギー-運動量の関係はシンプルで、
E=cp
c は光速。ニュートン力学の E=p2/2m とは構造がまるで違う。光のエネルギーは運動量の1次、遅い粒子のエネルギーは運動量の2次。この差がそのまま波の性質の違いになる。
アインシュタイン-ド・ブロイの関係式
アインシュタインは光量子仮説で E=hν を提唱した。h はプランク定数、ν は振動数。光は波でもあり粒子でもある。
光の場合、c=νλ だから p=E/c=hν/c=h/λ。つまり、
E=hν,p=λh
ド・ブロイはこれを逆方向に読んだ。光(波)が粒子の性質を持つなら、粒子もまた波の性質を持つはずだ。
質量 m の粒子が運動量 p で動いているとき、その粒子には波長 λ=h/p の波が付随する。これがド・ブロイの物質波仮説(1924年)。
角振動数 ω=2πν と波数 k=2π/λ を導入すると、アインシュタイン-ド・ブロイの関係式は、
E=ℏω,p=ℏk
ℏ=h/2π はディラック定数。ℏ を使うと 2π が消えて式がすっきりする。以降はこっちで通す。
電子のド・ブロイ波長を感覚として持っておくと便利で、E=1 eV の電子だと λ≈1.23 nm、E=100 eV で λ≈0.123 nm。原子間距離と同じオーダーになるのが 100 eV 前後で、電子線回折が観測可能になる領域。
分散関係
波の性格は ω と k の関係(分散関係)で決まる。
光子は E=cp だから ℏω=cℏk、つまり、
ω=ck
線形。位相速度 vp=ω/k=c で、群速度 vg=dω/dk=c も同じ。光は分散しない。
質量 m の自由粒子は E=p2/2m だから、
ω=2mℏk2
放物線。k に対して ω が2次で効く。位相速度 vp=ℏk/2m=p/2m は運動量に依存するから、波数の異なる成分は違う速さで伝搬する。波束は時間とともに広がる。群速度は vg=dω/dk=ℏk/m=p/m で、これは古典的な粒子速度 v に一致する。
分散関係 — 光子は線形、質量粒子は放物線
この2つの分散関係の違いが、光と物質を根本的に分けている。光は形を保ったまま伝搬するけど、物質波は広がる。
平面波と微分
波の最も単純な形は平面波。+x 方向に伝搬する平面波は、
ψ(x,t)=Aei(kx−ωt)
A は振幅、k は波数、ω は角振動数。これをアインシュタイン-ド・ブロイの関係で書き直すと ψ=Aei(px−Et)/ℏ。粒子の運動量とエネルギーが波の位相に埋め込まれている。
ここで平面波を微分してみる。何が出てくるか。
x で1回微分すると、
∂x∂ψ=ikψ
ik が飛び出す。p=ℏk だから、両辺に ℏ/i を掛けると、
iℏ∂x∂ψ=ℏkψ=pψ
x で微分する操作が「運動量を取り出す」操作に対応している。ここから運動量演算子を定義する。
p^=iℏ∂x∂=−iℏ∂x∂
x で2回微分すると ∂2ψ/∂x2=−k2ψ だから、
−ℏ2∂x2∂2ψ=ℏ2k2ψ=p2ψ
t で微分すると、
∂t∂ψ=−iωψ
両辺に iℏ を掛けると、
iℏ∂t∂ψ=ℏωψ=Eψ
時間微分がエネルギーを取り出す。エネルギー演算子は、
E^=iℏ∂t∂
平面波を微分するだけで、p と E を引っ張り出す機械が手に入った。
ハミルトニアン
非相対論的な粒子の全エネルギーは、
E=2mp2+V(x)
運動エネルギー + ポテンシャルエネルギー。これが古典力学のハミルトニアン H。
p と E を演算子に置き換える。
2mp2+V(x)⟶−2mℏ2∂x2∂2+V(x)
右辺がハミルトニアン演算子。
H^=−2mℏ2∂x2∂2+V(x)
H^ は関数に作用して別の関数を返す演算子。第1項が運動エネルギー演算子 p^2/2m、第2項がポテンシャル(ただの掛け算)。
シュレーディンガー方程式の導出
材料は揃った。E=p2/2m+V の両辺を波動関数 ψ に作用させる。
左辺は Eψ=iℏ∂ψ/∂t。右辺は H^ψ。等号で結ぶと、
iℏ∂t∂ψ(x,t)=H^ψ(x,t)
展開すると、
iℏ∂t∂ψ=−2mℏ2∂x2∂2ψ+V(x)ψ
これが時間に依存するシュレーディンガー方程式。
導出の論理を振り返ると、ド・ブロイの物質波仮説(E=ℏω, p=ℏk)と、平面波 ei(kx−ωt) の微分で演算子の対応関係(p↔−iℏ∂x, E↔iℏ∂t)を得て、古典的なエネルギーの関係式 E=p2/2m+V に代入した。それだけ。
シュレーディンガーは平面波から出発したけど、得られた方程式は平面波以外の解も持つ。むしろ V(x) が非自明な場合、解は平面波にはならない。方程式のほうが出発点より一般的になっている。ここが物理の面白いところで、特殊な仮定から出発して一般的な法則に到達するのは、力学の歴史ではよくあるパターン。
定常状態とハミルトニアンの固有値
V(x) が時間に依存しない場合、変数分離ができる。ψ(x,t)=φ(x)e−iEt/ℏ と置いてシュレーディンガー方程式に代入すると、時間部分が消えて、
H^φ(x)=Eφ(x)
時間に依存しないシュレーディンガー方程式。これはハミルトニアン H^ の固有値方程式。φ(x) が固有関数(固有状態)、E が固有値(エネルギー)。
線形代数の固有値問題 Av=λv とまったく同じ構造。行列の代わりに微分演算子、ベクトルの代わりに関数が入っている。
固有値 E は一般に離散的になる。境界条件が波動関数に制約を課すから。例えば幅 L の無限井戸ポテンシャル(0<x<L で V=0、それ以外で V=∞)だと、φ(0)=φ(L)=0 の条件から k=nπ/L(n=1,2,3,…)が決まって、
En=2mL2n2π2ℏ2
エネルギーが n2 に比例する離散スペクトル。L=1 nm の井戸に電子を閉じ込めると、基底状態 E1≈0.376 eV、第一励起状態 E2≈1.504 eV。エネルギー準位の間隔が eV オーダーで、これは可視光の光子エネルギーと同程度。量子ドットが光るのはこのメカニズム。
無限井戸の固有関数 — 境界条件が波数を量子化する
一般の ψ(x,t) は固有関数の重ね合わせで書ける。
ψ(x,t)=n∑cnφn(x)e−iEnt/ℏ
cn は展開係数で、初期条件 ψ(x,0) から決まる。各項が固有のエネルギー En で振動して、∣cn∣2 が状態 n を観測する確率を与える。
ハミルトニアンの固有値問題を解くことが、まぁ現代物理学(量子力学?)における「系を理解する」ことの核心。