Electronic Materials
導電・絶縁・誘電・圧電・磁気材料のノート
電子工学で使う材料は、電気をどう通すか(導電)、どう遮るか(絶縁)、どう蓄えるか(誘電)、どう力に変えるか(圧電)、どう磁場に応答するか(磁気)で分類できる。
導電材料
金属の電気伝導は自由電子が担う。導電率は自由電子が格子振動や不純物にどれだけ散乱されるかで決まる。散乱が少ないほど導電率が高い。温度が上がると格子振動が激しくなって散乱が増えるから、金属の抵抗率は温度とともに上昇する。
実用的な金属導電材料は無酸素銅(OFHC)、銅合金、アルミニウム。銅は導電率が銀に次いで高くて加工しやすいから配線材料の王様。アルミニウムは銅より導電率が低いけど軽くて安いから送電線や半導体配線に使われる。
高分子にも導電性を持たせられる。ポリアセチレンにヨウ素などをドーピングすると、共役二重結合に沿って電子が移動できるようになる。白川英樹がこの発見で2000年にノーベル化学賞を取った。導電率は金属には及ばないけど、柔軟性や軽量性が求められる用途(有機EL、フレキシブル基板)で使われている。
絶縁材料
高分子の絶縁材料は2種類。熱可塑性プラスチック(ポリエチレン、PVC、PTFE等)は加熱すると軟化して成形できる。熱硬化性プラスチック(エポキシ、フェノール樹脂等)は一度硬化したら再加熱しても軟化しない。PCBの基板材料(FR-4)はガラス繊維にエポキシを含浸させた熱硬化性複合材料。
セラミクスの絶縁材料は SiO₂/Al₂O₃ 系、MgO/SiO₂ 系、Al₂O₃ 単体など。耐熱性が高くて高温環境でも絶縁性能を維持できる。碍子(がいし)や耐熱絶縁体に使われる。
誘電材料
誘電体は電界を加えると分極する材料。分極の起源は3種類ある。
電子分極は原子核の周りの電子雲が電界で偏る現象。全ての物質で起きるけど、効果は小さい。応答は光の周波数まで追従できるくらい速い。
イオン分極は結晶中の正イオンと負イオンが電界で相対的にずれる現象。NaClのようなイオン結晶で顕著。赤外線の周波数くらいまで追従する。
配向分極は永久双極子が電界の方向に揃う現象。水分子(H₂O)が代表例で、もともと分子が持っている電気双極子が電界で回転する。応答が遅くて、マイクロ波の周波数あたりで追従できなくなる。電子レンジが2.45GHzで水を加熱できるのは、この周波数帯で配向分極の緩和が起きてエネルギーが吸収されるから。
コンデンサの静電容量は誘電体の分極で決まる。平行平板コンデンサに誘電体を挿入すると、誘電分極が外部電界を部分的に打ち消して、同じ電圧でより多くの電荷を蓄えられるようになる。比誘電率が高いほど容量が大きい。
比誘電率が最大級の材料はBaTiO₃(チタン酸バリウム)。ペロブスカイト構造で、キュリー温度(約120°C)以下で強誘電性を示す。積層セラミックコンデンサ(MLCC)の誘電体として大量に使われていて、スマホ1台に数百個載ってる。
圧電材料
圧電効果は応力を加えると電位差が発生する現象(直接圧電効果)と、電界を加えると材料が歪む現象(逆圧電効果)の2つを指す。発電と変形の双方向変換ができる。
圧電材料の応用は広い。
超音波の発生と検出。高周波電圧を圧電体に印加すると振動して超音波を放射する。魚群探知機と医療用超音波診断装置(エコー)はどっちもこの原理。送信と受信を同じ圧電素子でできるから、1つのトランスデューサで往復できる。
インクジェットプリンタと燃料噴射。圧電体の微小な変形でインクや燃料を精密に押し出す。エプソンのピエゾ式インクジェットがこれ。ディーゼルエンジンのコモンレール噴射でも圧電インジェクタが使われている。
超音波モータ。圧電体で弾性体に進行波を発生させて、摩擦力でロータを回す。電磁モータと違って磁場を使わないから、MRI室のような強磁場環境でも動作する。カメラのオートフォーカス(キヤノンのUSM)にも使われている。
表面弾性波(SAW)デバイス。圧電基板の表面を伝搬する弾性波を利用するフィルタ。スマホのRFフィルタとして大量に使われていて、5Gでは周波数帯域が増えたぶんSAWフィルタの搭載数も増えている。
高分子圧電材料としてはポリフッ化ビニリデン(PVDF)が有名。セラミクス圧電体と比べると圧電定数は小さいけど、フレキシブルで大面積化が容易。圧電スピーカーや、ウェアラブルセンサのような曲面に貼る用途に向いている。
磁気材料
磁性の起源は電子のスピン磁気モーメントと軌道磁気モーメント、核磁気モーメント。実用的に重要なのはスピン磁気モーメントで、強磁性体では隣接原子のスピンが平行に揃うことで巨視的な磁化が生じる。
鉄は代表的な強磁性体。結晶構造によって磁気モーメントの大きさが変わる。BCC(体心立方格子)の鉄は原子あたり2.2μ_B(ボーア磁子)の磁気モーメントを持つ。酸化鉄(Fe₂O₃, Fe₃O₄)は酸化により鉄イオンの荷電状態が変わって、フェリ磁性を示す。フェライトコアに使われる。
強磁性体は保磁力の大きさで硬質と軟質に分かれる。
硬質強磁性体は保磁力が大きくて、一度磁化したら外部磁界を取り除いても磁化が残る。永久磁石。NdFeB(ネオジム磁石)が最強で、モータやスピーカーに使われている。SmCo(サマリウムコバルト)磁石は耐熱性に優れる。
軟質強磁性体は保磁力が小さくて、外部磁界に対して容易に磁化・消磁する。トランスのコアやモータのステータに使われる。ケイ素鋼板(電磁鋼板)が代表例で、ケイ素を添加すると結晶の電気抵抗が上がって渦電流損失が減る。パーマロイ(Ni-Fe合金)は透磁率が極めて高くて磁気シールドに使われる。
磁歪材料は磁界を加えると寸法が変化する材料。逆に応力を加えると磁化が変化する(ビラリ効果)。この性質を使ってトルクセンサを作れる。回転軸に磁歪材料を組み込んで、トルクによる応力変化を磁気的に検出する。電動パワーステアリングのトルクセンサがこれ。